FC2ブログ

Baby don't cry34

落ち込むことなんてない。今日の仮契約はショッピングモール本部の承認を得て本契約になる。それは形式上のことで、今月末には外販の日程も決まっていた。リーフレットや宣伝ポスターの打ち合わせまでに広告文や画像を揃えなくちゃならないから大忙しなんだ。何度もやり直して必死で作った企画書が総支配人へ手渡すだけで終わったとしても。それが外販の実現になんの役にも立たなかったとしても。外販ができる。という事実は変わら...

Read More

Baby don't cry33

外販計画は順調に進んでいた。オーナーであるユノさんの承認を得たら今度はフランチャイズチェーン本部の承認だ。何度かやり直しを経た企画書を提出し、ドーナツの品質や衛生上の理由で6月から8月を外しての実施について承認を得ていた。就活が終わったテソンの協力により外販向けに臨時バイトの募集も埋まりそうだ。本社の倉庫に眠っていたショーケースやレジを手入れし、ドーナツ運搬用のパン箱を準備する。あとは肝心のショッ...

Read More

Baby don't cry32

──やり直し。とたった一言で僕の数時間に及ぶ労力は無駄になった。あれから急に優しくなったソジュンによしよしされ、それを振り払えばきゅうっとハグされ、鬱陶しいと文句を言いながらも僕は笑っていた。大丈夫。泣いたのはソジュンのせいじゃないし、誰のせいでもない。ただ僕が追いつかないだけ。知りたくてたまらなかった父親の存在を僕は期待していいのか、喜ぶべきなのか。ユノさんを想う気持ちは変わらないのに、それが一歩...

Read More

Baby don't cry31

「あれ?チャンミン、今日は休みじゃなかったっけ?」厨房からひょっこり顔を出したソジュンへ僕は片手だけで挨拶をし奥のデスクへ向かった。まだ開店して間もない店は忙しい。ホールでは出勤前のサラリーマンが列をなし、厨房は全商品が並ぶまで息つく暇もないのだ。朝目覚めたらいつものようにユノさんはいなくて、シンクへ置いただけのグラスをきれいに片付けマンションを出た。青天の霹靂とはこういうのを言うのだろうか。そう...

Read More

Baby don't cry30

ユノside今すぐ父親を探しだして事の真相を突き詰めたいが、そんなの祖母がとっくに手配してるだろう。それよりもチャンミンの気持ちが知りたかった。身寄りのない人間に家族ができ、それも大金持ちとくれば本来なら夢のような話に違いない。今は動揺して不安げに俺を見つめてくるが、そのうち状況を把握して嬉しそうに頬が緩むのだろうか。まるでドーナツを語るように。「チャンミナ、…話をしよう。」けれど此処は魑魅魍魎が蠢く世...

Read More

Baby don't cry29

ユノside急ぎの仕事が思いがけず早く片付いて、予定よりいくらか前に到着してしまった。ずしりと重い体を後部座席で起こすが、思うように足が動かない。余程俺は弟かもしれないヤツに会いたくないらしい。いっそ弟だと確定していれば対応の仕様もあった。この歳になって父の浮気や隠し子にとやかく口を出す気はない。突然弟ができたとしてもそれなりに可愛がってやるよ。俺の下で働きたいと言うなら相応のポストを与えてやろう。本...

Read More

Baby don't cry28

ユノside「ドーナツ屋は世界中の人を幸せにする立派な職業です!」でっかい目ん玉から星が飛び出しそうなキラキラ具合でソイツは言った。 不動産業界にその人ありと知られた会長を祖母に持ち、逆に夢想家で根無し草のような人間を父に持った。生まれながらに決まった人生は嫌ではない。それが最高の箱でもって俺を試すというなら、挑む価値は無限に広がる。目の前に兄という偉大な目標があってよかった。脇目も振らずひた走り、いつ...

Read More

Baby don't cry27

モッチリングお披露目製造の為に店を休業するわけにはいかない。僕はいつもより一時間早くその日の製造をはじめ、昼過ぎには一日分の製造を終えていた。どっと疲れが出て机に突っ伏す僕の肩をソジュンが労うようにポンと叩く。「お疲れ。あと閉店までの業務は俺に任せてお前は会長さまの対応に励みな。この店の命運を握る大株主さまだ、失礼のないようにしなきゃ。」勿論初めてお目にかかる会長の機嫌を損ねないよう出来る範囲で準...

Read More

Baby don't cry26

施設育ちの為かどんな状況でも熟睡できる自分を恨めしく思ったのははじめてだった。遮光カーテンの隙間から光の粒子が細かい塵となり、それは鋭角に僕へ突き刺さる。ハッと目覚めて飛び起きるが、昨夜一緒に寝たはずのユノさんを示す痕跡は何もなく僕の気分は一気におちた。昨日は不思議な一日で。僕お気に入りのバスタオルをめぐる誤解から、お互いを隔てた壁がひとつまたひとつ崩壊したような。あれは夢じゃないと隣で眠るユノさ...

Read More

Baby don't cry25

ユノさん渾身のモッチリングを食べ損ねたと気づいたのはいつだろうか。月極なら問題ないな。と僕の車を素通りしたときか。それとも僕だけならポーカーフェイスを崩さないコンシェルジュさんが、ユノさんのユニフォーム姿を見て流石に驚いたときか。いや違う。だだっ広い玄関ホールへ足を踏み入れた途端、自動で点灯した照明をなんと手動で消したユノさんによって壁に張りつけられたときだ。暗闇のなか、何も隔てない生々しい息が慣...

Read More