HOTミンな関係

天然なのにがっつり男なユノと賢く清廉、つんとしてもやっぱり可愛いチャンミンが大好きなほみんペンです。R18あり。

あなたが笑えば~愛憐~8










      

























その日は突然やってきた。 
チャンミンがこの家に人質として来てから3カ月が経とうという長雨が続く梅雨の夜だった。






「っ、ユノ!いるか、おい!」


勢いよく玄関の引き戸が開けられ、転がるようにやって来たのはジノだ。
ユンホはといえばチャンミンにねだられ、かるた遊びにつき合わされていた。
平仮名ばかりの取り札とは違い、読み札は漢字混じりのうえ行書体だから読みにくい。
ユンホの役目はもっぱら読み手だった。


「なんだよ、騒々しいな。」
「や、…っ、実は、」
チラッとチャンミンを見て一瞬戸惑う、そんなジノにユンホは嫌な予感がした。
「…どうした。ジノ。」



「チャンミンの、…チャンミンの母親が見つかった。」
ビクリと見てとれるほど体を強張らせたチャンミン。
その背中にそっと手を置き大丈夫だとユンホは優しくさすってやる。
「ジノ、…場所を変えよう。」
3カ月も子供を放ってどこで何をやっていたのか。
チャンミンにとってツラい話になるだろう。
ありのままをチャンミンへ聞かせるわけにはいかないとユンホは立ち上がった。



「っ、やだ、ユノ!僕も知りたい。ママは?どこにいるの?」
「チャンミン。後から全部説明してやるから、今は少しだけ待ってな。」
「やだやだ!」
そんな言い合いをジノは何とか止めようと腕を伸ばす。
違うんだ。問題はそれだけじゃない。
たった今、自分が呼ばれ話していた相手を思い出しながら悪い予感がしてならない。



「悪いようにはしない。俺がチャンミンを守るから。」
「…ユノ?」
「絶対に、守るから。」
ユンホはどんな理由があろうとチャンミンの母親を許せなかった。
チャンミンをあの母親へ返すわけにはいかない。
そうかと言ってこのままこの屋敷にいるわけにもいかない。
チャンミンとの別れが近づいているのをユンホは感じていた。
爪がくい込むほど強く手を握る。
そうでもしなければ目の前が真っ暗になりそうだった。





「場所を変える必要はない。」



襖が音もなく開く。
いつの間に立っていたのか。
玄関を入った音さえまるで気づかなかった。



「父さん。」
「あ、…っ、…組長。」



今になって玄関から複数の足音が響く。
ガンソクを追って来たらしい何人かの手下が顔をだし、その中に若頭のジノの父親もいた。


「ジノ。普段は組長ではなく社長と呼べ。」
「す、すみません。社長。」


チャンミンは3カ月もこの屋敷にいて初めてユンホの父親に会った。
母屋に行くことなどなかったし、多忙を極めるガンソクは屋敷に帰らないことも多い。
それに外に囲った愛人宅へ泊まるのも日常だった。
それも男の愛人だ。




随分この屋敷に慣れたチャンミンだったが、ガンソクを前にしてまた言葉を失ってしまう。
見た目が恐いわけではない。
涼しげな目元がユノに似ている。
顔を傾けたときの流れるような顎のラインも。
チャンミンは懸命に目の前の紳士とユノの共通点を探した。
怯えちゃいけない。
笑わなきゃ。
それなのに強張った頬はピクリとも反応せず、ただうつ向くことしかできなかった。



「ユンホ。取り立て先の女が逃げて子供を預かってるとは聞いたが、3カ月も世話してる子供をどうして俺に会わせん。」
「債務金も大した額じゃなくすぐに女の行方は分かる予定でした。それまでの人質のつもりでしたので、忙しい父さんの手を煩わせる必要はないと判断しました。」
「ふん、隠しても意味がないことはお前が一番知っておるだろう?」


親子の会話とは到底思えない、静かなのに緊迫した空気が漂う。
ガンソクの迫力とオーラは圧倒的でまだ20歳になったばかりのユンホでは太刀打ちできそうにない。
それでも父親の威圧感に屈することなく真っ直ぐ前を見据える。
その立ち振舞いこそがユンホを跡目にと切望される所以であった。






触れれば切れそうな空気だ、とジノは身震いする。
この意味深な会話はどうだろう。
金を貸した女が逃げた。
そんなことはどうでもいいような会話の流れで、問題は人質のチャンミンを組長に対面させなかったことにあるらしい。
それにはジノも心配し何度かユンホへも忠告した。
3カ月も人質とは思えない待遇で世話をしていて、そこの主人に挨拶なしとは義理堅いユンホにしては浅はかだと。







誰も言葉を発せずチャンミンに至っては怯えて言葉も出ないようだった。
父親に向けた視線を外さずユンホは静かにチャンミンを引き寄せる。
背中をゆっくり撫であげ、大丈夫だと緊張を解くように。
少しだけ肩の力が抜け穏やかな表情になったチャンミンをガンソクは舐めるように見つめた。



「随分と懐かれてるらしいな。」
「育児放棄と虐待を受け最初は酷い状態でした。母親がどうであれ、この子は施設に入れてやるべきです。」
「…そんなことは聞いてない。最初の頃はユンホ、お前としか話さなかったと聞いたぞ。」
「…それが、何か?」


ガンソクの視線はユンホの服の裾を頼りなげに掴む小さな手にあった。
その視線を移しゆっくりと頭のてっぺんから足のつま先まで見下ろしてしていく。
段ボール箱から拾った時とは別人のようないでたちのチャンミンを。
愛くるしい大きな眸と陶器のような肌。
ぷっくりとした艶々の頬に緊張からか真っ赤に色づいた耳たぶ。
真っ直ぐに伸びた細く長い手足と頼りないほど細い腰。


思わずユンホが自らの背に隠してしまうほどあからさまな視線だった。
そしてユンホが、おそらくジノも危惧していたであろうこと。


「チャンミン、…という名前だったな。エナの手伝いを率先してやってるそうじゃないか。それに噂通り見目の好い子供だ。チャンミン、こっちへ来い。」
ユンホの背に半分隠れたチャンミンをもっとよく見ようと呼び寄せる。
ガンソクがチャンミンを気に入ったのは誰の目にも明らかで、そこに欲という色を誰もが感じていた。



「っ、…あ、」
シャツの裾がチャンミンの震えをユンホへ伝える。
挨拶をと、そう思うのに声帯がうまく開かない。
何かが詰まったように空気だけが漏れる。
「父さん。チャンミンはひどい人見知りなんです。落ち着いてから改めて挨拶に行かせてください。」
ガンソクの高圧的でねっとりと欲の滲む視線からチャンミンをすっぽりとユンホは隠した。
これ以上その視線にチャンミンを晒したくなかった。



一瞬ガンソクの目尻が険しく吊り上がった。
それだけで周りの空気が凍る。
それほどの迫力がガンソクにはあった。


「俺の気が短いのは知ってるはずだ、ユンホ。」


静かに言うから余計に迫力があるとユンホの隣で唾を飲み込むのさえ憚られるジノだったが、それよりユンホだ。
もう自分がチャンミンを引っ張り組長の前に差し出そうかとジノは迷う。
まったく動こうとしないユンホにジノは焦れた。
なにも殺そうってわけじゃない。
組長の怒りをかってまでチャンミンを守る必要なんてない。
ジノはそっと背後から腕を伸ばした。
その途端ユンホの背中から発したオーラをなんと表現したらいいのか。
その威圧感に足が竦む。
それ以上なにも出来るはずなどなかった。








先にその空気を断ったのはガンソクで、これ以上の睨み合いは無駄だと判断したようだった。
また静かに話しはじめ、ユンホの肩からほんの少し力が抜ける。



「女は寂れた温泉地で見つかった。どうやってたらし込んだのか旅館のやもめ旦那のところへ転がりこんでいたのを捕まえた。」
「…そうですか。」
「最低な母親だな。子供の存在を情夫は知らないらしい。金は返すから子供はどうとでもしてくれだと。」


ちっ、とユンホは舌打ちした。
チャンミンに聞かれてしまった。
聞かせたくなかった。
後からであれば、もっと言いようがあったのに。
そんなユンホを見てガンソクの口元が歪む。


「余程この子供に執心らしいな。それほどチャンミンはいいか?ん?」
「な、なにを、っ、」
「確かにいずれ極上の美しい男に成長しそうだ。」
「っ、…父さん、…!」



「ユンホ。子供が16歳になったら俺に差し出せ。俺がこの子を貰おう。」


「っ、な、…!」


もしかしたら、と危惧していた。
だから会わせられなかった。
それなのに、実際面と向かって言われると驚きで足が竦む。



「俺は馬鹿と下品は嫌いだ。それはユンホ、お前なら分かるだろう?子供はすぐに私立の小学校へ入れろ。武術に茶道華道、すべてお前には仕込んであるはずだ。この子がどれほど俺好みに育つかはお前にかかっている。頼んだぞ。」


ニヤリと笑うと話は全て終わったと言いたげに体を翻す。
傍らに控えた手下へ、女へ金の代わりに子供を貰うとでも伝えておけ。そう言い置いて。











ユンホは動けなかった。
意味をよく理解していないらしいチャンミンが不安そうな面持ちでユンホの手に触れる。
その手をギュッと、
「っ、ユノ、…痛っ、…」
そうチャンミンに言わせてしまうまで、ユンホは手に込めた力を加減することもできない。





外は今だやまぬ雨がしっとりと縁側を濡らしていた。


















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