HOTミンな関係

天然なのにがっつり男なユノと賢く清廉、つんとしてもやっぱり可愛いチャンミンが大好きなほみんペンです。R18あり。

あなたが笑えば~最愛~9


































二時間ほど前に出たばかりの屋敷へユンホは車を乗り入れる。
ガンソクが指定した時間までまだ少しあったが、ユンホは車を止め普段は脇にそれる道を真っ直ぐ母屋へ向かった。



広大な庭園にはユンホの祖父の趣味で数種類の桜が植えられている。
今の季節に花を咲かせるのは冬桜。
ひと月ほど薄紅の花をつけるそれは母屋の近くにしかなく、チャンミンが毎日のようにこっそり眺めに行くのをユンホは知っていた。
桜が好きなんだ、と笑うチャンミン。
ユンホが思い描くチャンミンとの未来には、常に桜の花びらが舞っている。
一年中絶えることなく咲く幾種類もの桜の木をチャンミンへ贈りたい。
そんなの無理だと分かっているのに、願わずにはいられない。
チャンミンにとってそうであるように、ユンホにとっても桜は2人の出会いの象徴なのだ。







ユンホは玄関を入ったところでガンソクの秘書に止められた。
「ユンホ坊っちゃん。社長は既にお待ちしております。ご案内致しますのでどうぞ。」
恭しく頭を下げる秘書へユンホは苦笑いを返す。
実の親子だというのに、それなりの手順を踏まなければ会うことさえ出来ないのだ。



通されたのは屋敷でも最奥にある座敷で、ここは組員でもごく限られた人間しか立ち入ることを許されずユンホすら数えるくらいしか入った記憶のない部屋だった。
本金と本銀が立体感を織りなす襖には一流の絵師により老松と孔雀が描かれており、昔、傷をつけた組員が指を詰めさせられたという代物だ。


まだ幼いチャンミンがズルズル布団を引きずってきては離れの襖にぶち当たっていたのを思いだし、ユンホは小さく笑った。
チャンミンが高校生になり襖の値段を教えてやったら真っ青になってたっけと、こんな時でさえユンホはチャンミンを思い浮かべてしまう。





「社長、ユンホ坊っちゃんをお連れしました。」
秘書の呼び掛けにしばらく間を置き、「入れ。」と久しぶりに聞く声が威圧的に響く。
ユンホはぐっと奥歯を噛み下腹に力を入れた。
自然に背筋が伸び、眸の色が変わる。
目の前に立った秘書が思わず振り返るほどの熱量とオーラを放ち、開かれた部屋へ敷居を跨いだ。









「お久しぶりです。父さん。」
広い和室の重厚な座卓を前にガンソクはどっしりと座っていた。 
30過ぎの息子がいるというのにまだ50歳を超えたばかりのガンソクは、ユンホとよく似た細面の涼しげな目元をした男だ。
「月に一度の定例幹部会へ招集してるはずだが。それに来れば久しぶりなどにはならんはずだ。」
ガンソクがジロリとユンホを睨む。
「組員でもない自分が幹部会に呼ばれるのは理不尽なので、お断りさせていただいてます。」
普通の人間なら目を逸らしたくなるガンソクの鋭い視線を、ユンホは真っ向から受けとめた。
物怖じしない息子へ、ガンソクはふんと鼻を鳴らす。
「俺がお前の歳にはデイルは小学生だったし、お前もとっくに生まれていた。お前はのんびりしすぎるんだ。」
そう言いながら自分の対面に座るよう目線で伝えるガンソクへユンホも素直に従う。




若くして若頭の地位についたガンソクは、年齢相応に見られるのを嫌い、常に冷静沈着を旨としていた。
初対面の子供に“オジサン”と呼ばれた記憶を今でもガンソクは忘れられない。
当時22歳のガンソクだったが、今のユンホより遥かに落ち着き貫禄があったのだ。






静かな緊張感が漂う。
会社ではなくわざわざ本宅へ呼ばれたことに何か意味があるのではと疑っていたが、特に理由はないようだ。
ユンホはゆっくり小切手と権利証を取り出しガンソクの前に差し出した。
それを一瞥したガンソクは怪訝な表情でユンホを見据える。


「ユンホ。…これは?」


「見ての通りです。」


「8億。これはお前のビルか?」
「はい。末広がりの八、それにビルの権利証をつけて父さんへ差し上げます。」



ガンソクはユンホから目線をそらさず手元へ引き寄せたそれをパラリとめくり暫く無言で確認していた。
そして緩やかに口角を持ち上げニヤリと笑う。



「ユンホ。ビルの抵当を外したそうだな。せっかくお前の物になったのを俺へ差し出すと言うのか?それに、この金もお前にとっちゃあ大金だろう。どうした、急に。おかしな奴だ。」


目の前の息子へ探るような視線を向けながら、いよいよ組の盃を受ける気になったかとガンソクは満足そうに呟いた。
ユンホは一瞬目を伏せる。
再び父を見据え口を開いたと同時、



「お前、──跡目が欲しいか?」



それは肯定を前提とし、ユンホが首を振るとは思ってもみないであろうガンソクの物言いだった。
それに気付きながら、ユンホは敢えて言った。





「父さん。俺は、チャンミンが欲しい。」






目の前のガンソクは何も言わず、聞こえたのかさえ確認できないほど表情がない。
だからユンホはもう一度言った。

   
「言い訳もごまかしもしません。父さん、貴方が愛人にと望んだチャンミンを、俺は愛してしまいました。大切に育ててきた子へ邪な感情を抱き、それを抑えることができませんでした。」
「お前、…」




「これは上納金とかそういった類いのものではなく、チャンミンを譲り受けるためのものです。そして、一切の縁を切って頂きたい。」





それだけ一気に口にしたユンホは、真っ直ぐガンソクを見つめたまま押し黙る。 
気味が悪いほどの静寂が流れ、息がつまりそうだとユンホは思う。
一度目を逸らしたら二度と前を向けない気がして、恐ろしく怒りを孕んできたガンソクの視線を真っ向から見つめ返した。



先に動いたのはガンソクだった。
スッと立ち上がり背中を向ける。
まったく隙のない、見る者を圧倒する背中を。


 

ガンソクの進む先には床の間があり、派手な襖とは対照的な水墨画の掛け軸が掛かっていて、実はこちらの方が国宝級で天文学的に値が張るのをユンホは知っていた。
そしてその傍ら、“静寂の極致”と謳われる名刀『康光』が掛けられた刀掛台へガンソクの手が伸びるのをユンホは見た。


──と、次の瞬間、風が起こる。




パラパラっと舞いユンホの手元へ落ちてきたのはユンホの髪で、ほんの数本落ちた手のひらへ視線を落とした瞬間、ポタリと指を汚した真っ赤な血。
頬を伝う生温かい液体を拭いもせず、ユンホはまたガンソクを見据えた。
焼けるような痛みもまるで気にならない。


「瞬きもしないとはさすが俺の息子と言いたいところだが、…なぜ、避けようとせん。俺が実の息子を手にかけることはないと侮っておるのか?」


静かな物言いとは反対にユンホの頬へピタリと当てた刀は今にも鋭い刃先を息子へ向けようとしている。


「いえ。父さんがこの部屋を血で汚すことはないと思いました。」
「はっ、甘いわ!試してみるか?よほど覚悟したうえでの裏切りだろうからな。」


どちらも視線を外すことなく、恐ろしく緊迫した睨み合いが続く。
ガンソクに睨まれ一歩も引かないのは、恐らくユンホくらいのものだろう。
昔、背中に隠すのがやっとで何ひとつ出来ず突っ立ったままのハタチのユンホではない。
真剣で頬を撫でられ、引くどころか逆に押して更に深く抉られ流れる血を怖れもしない。




「…馬鹿者が、…っ、」
ちっと舌打ちをし、絡み合った視線の先でガンソクは忌々しげに刀を戻す。
もちろん本気で斬りつけるつもりはない。
ユンホを試したかったのだ。
ユンホの眸が恐怖への怯えで揺れるか、…それとも。
はぁ、と大きく息を吐いたガンソクは、もと居た場所へ腰をおろす。
そしてゆっくりと言った。



「実の父であり組織のトップである俺への裏切りは、そう簡単に許されるものではない。だが、…そうだな、条件を出そう。」



家宝ともいえる名刀の汚れた刃先を拭いながら、ガンソクは口元を歪めニヤリと笑った。





















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