HOTミンな関係

天然なのにがっつり男なユノと賢く清廉、つんとしてもやっぱり可愛いチャンミンが大好きなほみんペンです。R18あり。

あなたが笑えば~最愛~33



































ユンソクは事務所の自社ビルを出て、いつものように黙々と歩く。
まだ昼過ぎだが映画の仕事が一段落して暫くは会議や打ち合わせのために出社するだけでよかった。
そして今日の役員会で社長の退任がほぼ決定した。
芸能事務所として会社を興す前は小さな劇団で、その頃から中心になり会社へ貢献した人だが副業へ手を広げすぎてデカイ負債を負った。
東神組の融資がなければ事務所を潰していたであろう責任は大きく致し方ないのだ。
後任として自分の名前が出たことにユンソクは驚いたが、それもいいかもしれないと思う。
自分の感情を押し殺し、人を傷つけてまで固執し執着した俳優業だが、その情熱も今は空っぽの身体を吹き抜ける虚ろな風のようだった。




森林公園を脇に長い川べりの道が続く。
劇団をヤクザに買収され芸能事務所になったばかりの幼い頃からずっと歩いてきた道。
ユンソクのお気に入りの。
そこの橋のたもとにユンソクはひとりの男が立っているのに気づいた。
これで5日目だ。 
話すことはないと何度言っても諦めようとしない男をため息混じりにユンソクは見る。



長身の細身だがしっかりとしたガタイは男らしく、すっきり整った顔立ちと色気を漂わせる口元、目尻に薄く浮いた傷痕さえ魅力的な男。
数日前の会合が初対面だったが、そうとは思えない、この吸い込まれそうな深い切れ長の黒。
ユンソクはその眸を見たくないし、見られたくない。
遥か昔、忘れたいのにいまだ燻る感情を思い起こしてしまうから。




「案外しつこい人なんですね。最近盃を受けたばかりで昇り龍のような勢いだと聞いてましたが、もしかして暇なんですか?」
かなり年下相手に大人げないと思うが、ついユンソクは本来の皮肉っぽさがでてしまう。
ふっと目の前の男が笑った。
これほど年が離れているのにそれを思わせない懐の深さと包みこむような包容力。
思わずユンソクの口元が歪む。
思い出したくないとっくの昔に蓋をした感情にメスを入れられてるような気分になるのだ。



「来るのは5回目ですが、俺、この川べりの道が好きです。川向こうの空き地やグラウンド、こちら側の鬱蒼とした森林、その向こうにビル群が列挙してるとはとても思えない。」
ふわりと優しそうに笑うその男は噂に聞こえる修羅とはかけ離れていてユンソクは不思議な気持ちになる。
「もう何十年も歩いてきた特別な場所です。昔は森の向こうにビルなど見えなかった。都会にぽっかりと浮かんだ別世界なんです。」
ユンソクがそう言えば、男は静かに目線をおとし上目遣いでそれを寄越す。
そして緩やかに口角をあげ言うのだ。
「俺の大切な人にもここを見せてやっていいですか?」
照れくさそうに、それでいて極上に甘い笑顔で。





ユンソクは眩しそうに目を細め、ふぅとため息ともつかぬ声を漏らす。
「…やだな、…親子して同じようなことを言って、…」


「…え?」


不思議そうにする男を一瞥し、ユンソクはバッグを探り慣れた手つきで麻布に包まれた長細い筒を取り出した。
「平日の、こんな真っ昼間では誰も通らないから、…一曲聴いてくださいますか?」
「…あの、」
何か言いかけた男をユンソクは目線でさえぎる。


「──貴方に聴いてほしいんです、ユンホさん。」









淡い日射しが降りそそぐ冬晴れの空に澄みきった音色が響いた。
冬の空気のようだとユンホは思う。
透明で凛とした美しい旋律。
そしてその音色を形にしたような美しい立ち姿。
シンプルな竹笛からこれほど情緒豊かな音が生まれるのかとユンホは驚き、その音色に酔った。



なんて曲だろうか。
穏やかで優しく、そしてどこか儚い。


軽やかに音を紡ぎだす指が美しい。
伏し目がちに横笛を吹く姿が映像のように映しだされ、ユンホは時間を忘れ見惚れてしまった。






「…ユンホさん?」
「っ、あ、…」


名前を呼ばれユンホはハッとする。
恥ずかしいほど聞き惚れてしまった、ユンホはそれを誤魔化すように髪を数回かきあげ本来ここで待ち伏せした目的を果たさなければと思う。


「ユンソクさん、…その竹笛、」
その前にユンホはどうして自分に聴かせたかったのか分からないけど、素晴らしい演奏を聴かせてくれたお礼を言いたかった。
それが。
「ああ、これは“篠笛”って言うんですよ。」
ユンソクの言葉にユンホはピクリと眉を動かす。



──篠笛、…つい最近どこかで聞いた、



「僕はもともと旅一座の座長に拾われた捨て子です。だからお囃子なんかで欠かせない篠笛は赤ん坊の頃から僕の体の一部なんですよ。」
そう言って微笑んだユンソクを眺め、ふとユンホの疑念が確信に変わった。
そして同時にクラブのホステスから聞いた噂話も思い出す。




“東神会組長の背中にはそれは美しい天女がいるという噂よ。それも篠笛を奏でる天女。”



天女と言うからには女性だと思ったが、目の前の年齢を感じさせない美しい人であれば頷ける。
それに実際にガンソクの彫り物を見たチャンミンが言っていたじゃないか。
天女が少しだけ自分に似ていたと。
ことの最中にチャンミンがそんなこと言うものだから、嫉妬にかられたユンホはチャンミンが泣き出す寸前までチャンミンを突き上げすっかり記憶から消去していた。
初めてユンソクと会ったときに感じた、どこかチャンミンと似ている面差しにもコレで納得がいく。





「ユンソクさん、…貴方と父は一体どういう関係なんですか?」
「だから言ったじゃないですか。もう29年も前にあの方がうちの劇団を買い取って興業のすべてを取り仕切っていたんです。当時僕は14歳で子役から脱皮できるかどうか難しい時期でした。あの方は22歳で、…でも、もっと老けて見えましたよ。」
ぷっと可笑しそうにユンソクが笑い、その顔が無邪気で子供のようだとユンホは眺めていた。



「父もその頃は若頭になったばかりで芸能部をすべて任せられ大変だったと聞いてます。」
ユンホはエナから聞いた話を思い出しながら話し、遠くを眺めるようなユンソクの様子をうかがう。
最初ユンホはユンソクをひた隠しにしている愛人なのだと思っていた。
人気俳優がヤクザの組長となど公に出来るわけがない、俳優生命に関わるスキャンダルになりかねないのだ。




「あの方にはもうお子さんもいらしたのですが、ほとんど家族をかえりみない酷い父親だったんでしょうね。無茶ばかりしてましたから、…ふ、懐かしいな、…もう20年以上会っていません。」
「え、…会ってない?」
嘘を言ってるようには見えない。
本当に昔を懐かしむように話すユンソクを見てユンホは驚きを隠せない。
UM芸能の経営破綻を救う理由でありユンホの苦し紛れの脅しに動揺を見せたその原因は目の前の男じゃないのだろうか。




 
「ユンソクさんは父の刺青をご覧になったことがありますか?」
そうユンホが聞けば、キョトンとして本当に何も知らないようだ。
だだの昔なじみ?
まさかという思いとそうにしか見えないという思いでユンホは迷う。





「父の背中には“篠笛を奏でる天女”が住んでます。篠笛を吹く天女は貴方に似ているそうです。何か、覚えは?」


迷いを振り払うように淡々と聞いたユンホの足元で落下音がして、ふと見ればアスファルトに落ちて草むらまで転がったのは篠笛だった。
よく見れば、その手が微かに震えている。





「貴方ですね、…あの天女は。」




とっさに背を向けたユンソクへユンホは近づき、その横顔を覗き見る。
くるんと上向きの長い睫毛と華奢なうなじから続くなだらかな肩へのライン、…やはりチャンミンに似てる。




7年前チャンミンを一目見て愛人にと決めたガンソクの意図をユンホは今になってやっと理解できたような気がした。

















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