HOTミンな関係

天然なのにがっつり男なユノと賢く清廉、つんとしてもやっぱり可愛いチャンミンが大好きなほみんペンです。R18あり。

Baby don't cry12



































車に乗って5分もすると緑豊かな高級住宅地だ。
普段ほとんど通ることのない坂道はため息が出るほど立派な屋敷が建ち並び、その美しい佇まいにどうしたって僕は落ち着かない。


そのなかでも一際高級感漂うマンションへユノさんは車を乗り入れる。
まさかと思うが、でも多分ここはユノさんの自宅だろう。
2層吹き抜けのホテルのようなエントランスに足を踏み入れた途端背中に緊張がはしる。
フロントコンシェルジュが恭しく一礼する前を両手両足同時に出してすっ転びそうなところをユノさんに支えられ、カァと頭に血がのぼった。


「あ、あの、…どうして僕はこんなところに居るんでしょう?」
駐車場で助手席側にまわってきたユノさんが、あまりのスマートさでドアを開けてエスコートさながら僕の腰に手を添え歩くからつい促されるまま付いてきてしまった。
「どうしてって、…ミーティングって言わなかったか?」
不思議そうに言うユノさんだけど、ミーティングでオーナーの自宅へあがりこむ方が不思議だと思う。
縺れそうな足元はなかなか進まないのに、ぐいぐい引っ張るユノさんが強引で困る。
だからと言ってこの静寂極まるエントランスで大声出して争うほど僕は子供じゃないから。
「わ、分かりました、…受けて立ちます。」
必要以上に力んで盛大に喉が鳴ったのを、ユノさんが静寂などまるで気にせず可笑しそうに笑った。





エントランスを抜けると中庭の緑と水盤が広がる。
柔らかな陽が水面に反射しきらきらと輝いて、長い内廊下の眺めを爽やかに演出していた。
そしてホテルのようなマンションの最上階は僕の想像を遥かに上回る別世界で、ワンフロアに一戸という有り得ない造りだった。


これが大理石という代物だろうか。
つるつるして僕の油臭い靴下ではくっきり足跡がついてしまいそうだ。
…と、僕の部屋がすっぽり入ってしまいそうな玄関ホールで僕は進むことができないでいた。
「何をしてる?」
玄関ホールからいくつもあるドアのひとつに向かっていたユノさんが怪訝な顔つきで振り向く。
「遠慮するな。入れ。」
そうは言うけどこんなピカピカの床、遠慮しない方がおかしい。





「わぁっ!」
出されたスリッパがふわふわモコモコの高級品でそれが真っ白とくれば僕はまた躊躇して履くことができず、結局業を煮やしたユノさんに引きずられるようにあがりこんでしまった。
「わぁぁ、…///」
なんという広さ!
ドアを開けた途端広がる光景に僕は思わず感嘆の声が漏れた。
広すぎるLDKでは存在感たっぷりのアイランドキッチンがまるでインテリアのひとつのようで、ダークブラウンの扉にブラックのカウンターがカッコいい。
全面のガラス窓は部屋にそってカーブを描き、眼下に広がる緑と遠く密集したビル群が絵ハガキのようだ。
軽くキャッチボールができそうな広さなのに、折り上げ天井というのか中央が一段と高くなった天井がさらに開放的な空間をつくり間接照明とダウンライトが独特の雰囲気を醸し出していた。




「おい。」
「わっ!」
首が痛くなるほど上下左右を見渡す僕へ背後から急に声を掛けてくるから飛び上がるほど驚いてしまった。
なんだかここへ来てから“わ”しか言葉を発してない気がして情けなくなる。
「こっちだ。」
そう言われてリビングの左手にあるドアへよばれる。
左手といっても3つほどドアがあって迷路みたいだと少しだけわくわくしながら覗けば、そこは結構普通に8畳ほどのベッドルームだった。
「…普通ですね。」 
「 は?」
「あ、いえ。」
それにしてもここはユノさんの寝室だろうか。
自分の寝室を僕へ見せてどうするつもりだよ?
「ユノさんの寝室がどうしたんですか?」
僕は努めて平静に言う。
だって男同士なのに寝室という響きで動揺するなんておかしいじゃないか。





「マスターベッドルームは向こうだ。俺の寝室へは誰も入れたことないし、入れるつもりもない。」



何気なく言ったであろうセリフがなぜか胸に突き刺さった。
そんなの知るか。勝手にここまで連れてきたのは誰だよ?と文句ばかりがぐるぐると渦を巻く。
冷静に言い放った人の言葉に傷ついたわけじゃない、と自分へ言い聞かせる。
そう、ユノさんのプライベートなんて僕には関係ないのだから。





「ここは、ゲストルームだ。風呂もトイレもついてる。ここをお前の仮眠室として使うからな。」
「は?何のために?」
確かに時間を拘束され寝不足だと訴えたけど、それでこの高級マンションの一室を提供するとか嫌味としか思えない。
「従業員の健康を守るのは経営者の義務だ。福利厚生の一種だと思えばいい。」
抑揚のない声色で淡々と話す人へ腹の底から怒りがわいてくる。
僕が中途半端にドーナツトレーニングを投げ出そうとしたからと言って、こんな豪華なスリッパ履くのさえ戸惑ってしまう自宅を福利厚生だとか、経営者の義務とか、…馬鹿にしてる。 



僕は無意識に履いていたスリッパを脱いでユノさんめがけて投げつけていた。
それが運悪く、…というか運良くというか。
なぜか避けようとしないユノさんの肩に当たり鈍い音をたてた。


「こんな別世界の空間で仮眠できるわけないじゃないですか。そもそもあなたが自宅を提供する義務なんてない。あなたへのドーナツトレーニングを全うすることがショップ存続のチャンスを与える条件だったのなら、中途半端に終わらすなってひと言叱ればいいだけなのに。」
僕はもう何を言いたいのか自分でもわからなくなっていた。
どうしてこれほど腹が立つのか、よく考えれば僕にとってラッキーでしかない申し出にこれほどイラつくなんて。



やはり僕はこの人とは相容れない。
価値観が違う。
環境が違う。
何もかも、同じ土俵に立って話ができる人じゃなかったんだ。






ユノさんは無言のまま立っていて、眉間のシワを切なそうに寄せる。
どうしてそんな顔を。
悲しいのも腹立たしいのも僕だと。



「…帰ります。」



逃げるように体を翻し、リビングを抜け玄関ホールまで足を早める。
そういえばスリッパを投げたから片方しか履いてないと残りのひとつを廊下のすみに置いたところで、
「チャンミナ!」
追いかけてきた手の熱さが僕の腕をつかむ。



「っ、ユ、ユノさ、…っ、」


そしていつの間にか僕の小さくはない体がユノさんの両腕に包まれていた。



「は、離して、」
「駄目だ。」
ぎゅうっと力を入れられたらさらに体が密着するじゃないか。
軽くハグさえしたことないのに、これじゃあ抱きしめられてるみたいで。
「ユ、ユノさん、…っ、や、離せっ、…」
「お前がどうして怒ったのかわからない。わからないから教えるまで離さない。…どうしたんだ?」
「…っ、…そんなの、…」


そんなの僕にだってわからないよ。


ユノさんは僕の生き甲斐のショップを軽く買い取るほどの大金持ちで。
目が眩むほど豪華なマンションに住む別世界の人間で。
しかもそこを従業員へ提供しようという恩情ある義理堅い経営者だ。


僕が怒ることなどこれっぽっちもない。



不器用なくせに自分でやると言い張って。
拍子抜けするほど僕を褒めてみたり。
忙しいだろうに僕のショップへかなりの時間を割いているのだと思う。


まめに寄ってはソンミさんからせっつかれるように帰っていく人を、いつしか僕は心待ちにしていた。
ひとこと言えば倍になって返ってくる人だけど話しやすくて。
チャンミナ、なんて気安く呼ぶから勘違いしていた。





この人は仕事の同僚ではなく、ましてや親しい友人でもない。
例え望んだとしても、プライベートに触れることさえ許されないであろう。
ユノさんとはまるで住む世界が違うのだと今さらながら実感して、本当はそんなこと最初からわかりきっていたはずなのに。


なぜそれが、こんなにも悲しいんだろう。














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