HOTミンな関係

天然なのにがっつり男なユノと賢く清廉、つんとしてもやっぱり可愛いチャンミンが大好きなほみんペンです。R18あり。

Baby don't cry17


































夜景が煌めく時間帯はとうに過ぎ、寝静まったビル群の上空をチラチラと星が瞬いている。 


雑誌で見て飲んでみたいと軽く話した高級ワインが今目の前にあって、それは当然のように美味しかった。
ぐいぐいグラスを空けていく僕を嬉しそうに微笑むユノさんがいて、それが僕にも伝染するのか高揚した気分のままつい飲み過ぎてしまう。



僕の思い出話を聞きたいとユノさんは言うけど、そんなに楽しいものじゃない。
それに調査済みだろ? 
幼くして唯一の肉親である母を亡くし、母がずっとボランティアで通っていたという教会の施設で育った。
神父さまやシスターはとても慈悲深く、独りぼっちの寂しさを余りあるほどの愛情で埋めてくれたと思う。
だからこそ通勤時間がかかっても教会近くのボロアパートから引っ越そうとは思えないんだ。



毎月少しばかりの寄付と空いた時間をボランティアで費やす。
母が愛した教会を僕も愛していて、それは親子ではもう共有しえない時間を繋げる糸のように思っていた。




「俺の父親の話は聞いてる?」
ワイングラスから舐めるように含んだワインを嚥下しながらユノさんが僕へたずねる。
「相当な変わり者だって、…っあ、」
酔いにまかせつい口が滑ってしまった僕をユノさんは可笑しそうに笑った。
「そう、変わり者!母親とは子供の頃からの許嫁で兄妹のように育ったからって甘えきってる。画家の端くれらしく外国を放浪しては絵ばかり描いて。時々送ってくる絵ハガキでしか所在が分からないってどう?困った父親だよ。」
僅かに歪んだ口角をごまかすように笑って。
「それで俺も兄貴も早くから社長の座についた。周りがラッキーだと言うからにはラッキーなんだろうな。」
ワインのボトルを向けられ、お酌してもらうのはヘンだけど酔っぱらいの雰囲気のままグラスを差しだす。


「…あの、」
なんとなく僕は引っ掛かっていた。
ぎりぎりと言えど二十代のユノさんが仙人のように物分かりが良すぎる気がする。
本来ならまだまだ失敗して、それを糧に経験を重ねる年齢なのに。
夢を叶えるのは素晴らしいことだ。
でもその影に犠牲は少なからずあって、それは年の離れたお兄さんよりユノさんの方が大きかったんじゃないかと思う。
「勝手ですよね、お父さん。」
「ん?」
「僕、戸籍にも父親の名前がなくて、…母が何も言わず亡くなったので、知る術がないんです。」


ああと呟いたユノさんは勿論そんなこと調査済みだろう。
母との間にどんな事情があったか知らないけど存在した痕跡さえ残してくれない父親もヒドイが、育児放棄ぎみに家業をほうり出す父親もヒドイ。



きっとユノさんはそれを口に出したこともないのだろう。
ソンミさんが話す社長のユノさんは、社長に成るべくして成り、常に前を向いて愚痴のひとつも言わない冷静で大人の男性なのだ。
でも僕は知ってる。
疲れたと弱音を吐くユノさんや、慣れないドーナツ作りの繊細な作業にイラつき放り出すガキっぽいユノさんを。



ワイングラスの残りを僕はくいっとひとくちで飲み干して、グラスでぴったりと口を覆う。
不思議そうに見てくるユノさんを一瞥して。


「クソオヤジーーーっっ!勝手ばっかして、いつか見つけたら承知しないからなっ!!」


グラスの中でくぐもった大声が響き、目を真ん丸にして驚くユノさんが可笑しい。
僕は大きく深呼吸してユノさんへ笑って見せた。


「本音を吸い取ってくれる魔法のグラスです。僕、たまにやるんだ。ほら、いくら接客が好きでも嫌な客っているじゃないですか。」
おどけたように言えばユノさんも肩を震わせ笑いだし、それ貸して、と僕のグラスを奪い取る。
ちょっと自分のグラスでやってよ、という僕の文句は無視され、僕のグラスは2人分の愚痴でいっぱいになった。



「あー、結構気持ちいいな。」
んんーと腕を伸ばし清々しく言ったのはユノさん。
そんなにたまってたの?ってほどグラスを離さないから呆れたけど、社長ってのは大変なんだとしみじみ思う。
「でしょう?でも僕、誠実で優しい店長で通ってるんで内緒ですよ。」
ふっと笑ったユノさんを見れば口の周りにグラスの痕が付いてる。
男前な顔と口周りのワッカがアンバランスで思わず僕は手を伸ばしそのワッカを指でたどってしまった。
一瞬だけ体を引いて、でも僕にされるがままのユノさん。
僕の指がゆっくりと唇の周りを、その端にある色めいたホクロを、そして男らしく結んだ唇へ触れた。



「…チャンミン、…なに?」
「なにって、…ユノさんだってこの前僕のを触ったし、…」
だからどうだって言うのか。
言ってることがおかしいって分かっているのに止められない。
今にも心臓が飛び出そうで、それなのにユノさんの肌へ直に触れる喜びをどうすればいいんだろう。



ユノさんがまったく動かないから、それをいいことに暫くユノさんの顔をやわやわと撫でた。
これ以上やったら変態だろ?と自分を叱責し、なんとか離そうと止めた手の甲がふわりの包まれ予想外のそれに体が跳ねる。
「ユ、ユノさ、…?///」
「ズルいぞ、…俺にも触らせろ。」
「へ?…っん、」


広すぎるリビングに2人きりでよかった。
自分からやっておいてなんだけど、だっておかしい。
何畳もの広さのラグのほんの一角に体を寄せたデカイ男が2人、ユノさんの頬と手のひらに挟まれた僕の手と僕の頬を包むユノさんの手。
交差しあうお互いの腕がみょうに恥ずかしくて。
思わず伏せた顔を顎ごともちあげるユノさんが真剣すぎて困る。
これはふざけた僕への戒めなのか、それともユノさんが真剣にふざけているのか。



もうごめんなさいって謝ってしまおう。
やり過ぎましたって。
ついさっき美人秘書が口づけた唇を僕も触りたかっただなんて言えない。
自覚したばかりの好きが増殖して困るなんてとても。



「お前さ、…見た?よな、…」
「え、…な、なにを、」


見たか?と聞かれ思い当たることがありすぎて焦る。
それはどう考えてもキスシーンのことだろう。


「思ったよりショックを受けてて、…その、…動揺してる。」
「はい?」
それって僕のセリフじゃないの?と思うが、ここで告白するわけにはいかず、ぐっと言葉をのみこめば、
「キスも、…女を抱くのも、俺にとって仕事の一環だと思ってた。人間関係を円滑にするための手段だったり付き合いだったり。」


なんだよ、それ。


「ふざけてますね。キスって恋人同士がするものでしょう?」


少なくとも僕はそう思って22年間生きてきたつもりで、それを仕事の一環なんてやはりユノさんとは相容れないのかもしれない。


「お前ならそう言うと思った。」
それなのにハハっと嬉しそうに笑うユノさんが信じられない。
「バ、バカにするな!って、ちょ、…もう離してください、っ!」
キスの話なんてしたくない。
ユノさんの恋人観なんて聞きたくない。
僕はまだ自分の気持ちを自覚したばかりで、それを噛み砕いて上手く付き合うすべを学んでいない。




「俺にとってどうってことない行為なのに、…よほどお前には見られたくなかったらしい。」
「っ、知るか!」
ユノさんの腕を払いのけ距離をとる。
忘れたい光景がフラッシュバックし堪らない気持ちになるのに、どうしてユノさんの方がつらそうに眉を寄せるのか。
「僕、…僕はいつか現れるワンピースが似合う女性のために大切なキスはとってあるんです。でも価値観は人それぞれだからユノさんはユノさんの好きにしたらいいですよ。」
そんなこと、勿論思ってないくせに言っちゃって。
そうか。とユノさんが小さく息を吐く。



「チャンミンの純情が俺には羨ましいのかもな。」
「あ、また僕をバカにして!」
「や、それはない。…そうだな、俺もワンピースが似合わなくていいから大切な人を見つけるか。」
「…ですね、それがいい、」


そうだよ、ユノさん。
背負ったものの重さに時々弱音を吐いたり、
生まれ年のワインなんて代物、
僕なんかじゃない、
ユノさんの大切な人にこそあげるべきだろう。



ついさっきまで手のなかにあったぬくもりが、今は少しだけ寒くて冷たい。
久しぶりに芽生えた感情が報われることなんて無いのだから、できることなら穏やかに消えてなくなってほしかった。
それがそんな小さな願いもむなしく、どうしようもなく溢れでる想いがあることを僕は初めて知ることになる。















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